ピークタイムを活かす残業ゼロ戦略:エネルギーレベルに合わせたタスク管理
忙しいITエンジニアが抱えるタスク管理の課題
複数のプロジェクトを掛け持ちし、技術的な深掘りや突発的な対応に追われる日々。ITエンジニアの業務は、高い集中力と柔軟性が同時に求められます。しかし、多くのエンジニアの方が、タスクの優先順位付けに苦労したり、定時後に開発作業や打ち合わせが入ることで、気づけば連日残業しているという状況に直面しています。
一般的なタスク管理手法を取り入れても、なかなか残業が減らない、プライベートや自己学習の時間を確保できないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。その原因の一つに、「自分のエネルギーレベルや集中力の波」を考慮せずにタスクをこなしている点が挙げられます。
時間管理の古典的な考え方では、タスクをリストアップし、重要度や緊急度で優先順位を付けて上から順にこなすことが推奨されます。これは有効なアプローチですが、人間の集中力やパフォーマンスは、時間帯や体調によって大きく変動します。常に一定の集中力を維持できるわけではありません。高い集中力が必要なタスクを、集中力が低い時間帯に取り組んでも効率は上がらず、かえって時間を浪費し、残業に繋がる可能性が高まります。
本記事では、忙しいITエンジニアの皆様が、自身の「エネルギーレベル」や「時間帯ごとの集中力の波」をタスク管理に組み込むことで、残業を削減し、生産性を向上させる具体的な方法を解説します。
なぜエネルギーレベルを考慮したタスク管理が必要なのか
人間の脳の働きは、時間帯によって変動します。一般的に、多くの人には1日のうちに集中力が高い「ピークタイム」と、集中力が低下しやすい時間帯があります。
- 午前中: 脳がリフレッシュされており、集中力が必要な複雑な思考や分析、創造的な作業に適していることが多いです。
- 午後: 食後の眠気や午前中の疲労により、一時的に集中力が低下しやすい時間帯です。その後、再び集中力が回復する人もいれば、そのまま夕方まで低下傾向が続く人もいます。
- 夕方以降: 1日の終わりに近づき、疲労が蓄積しやすい時間帯です。定型業務や比較的軽微なタスク、短時間で終わる作業に適している場合があります。
ITエンジニアの業務には、設計やコーディングのような高い集中力と論理的思考が求められる作業、ドキュメント作成やメール返信といった定型的な作業、会議やチャットでのコミュニケーション、バグ修正のような突発的な対応など、多様な種類のタスクが存在します。
これらのタスクを、自身のエネルギーレベルや集中力と関係なく無計画にこなしてしまうと、以下のような非効率が生じます。
- 集中力が必要な作業を非ピークタイムに行い、時間がかかる上にミスが増える。
- ピークタイムを、集中力を必要としない定型作業やメールチェックで浪費してしまう。
- 疲れているのに難しい問題に取り組み、行き詰まってさらに疲労し、生産性が低下する。
自身のバイオリズムを理解し、それに合わせてタスクを配置することで、限られた時間の中で最大の成果を引き出し、残業を減らすことが可能になります。
エネルギーレベルに合わせたタスク管理の実践ステップ
自身のエネルギーレベルを考慮したタスク管理を実践するための具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:自身のエネルギーレベルの波を観察・記録する
まずは、1日のうちで自分が最も集中できる時間帯、逆に集中力が低下しやすい時間帯を把握することから始めます。数日間、簡単な記録を取ってみるのが有効です。
- 記録する項目例: 時間帯、その時の気分や体調、集中力レベル(5段階評価など)、行っていた作業、作業効率(進捗具合や満足度)。
- ツールの活用: スマートフォンのメモアプリ、Notionなどのタスク管理ツール、またはシンプルなスプレッドシートなどで記録できます。Notionであれば、日ごとのページを作成し、時間帯ごとのコンディションと活動を記録するプロパティを追加すると良いでしょう。
数日または1週間ほど記録を続けると、自身のエネルギーレベルの典型的なパターンが見えてきます。例えば、「朝起きてから2時間が最も頭が冴えている」「ランチ後は眠くなるが、15時頃に再び集中力が上がる」「夕方は単純作業なら効率が良い」などです。これが、あなたのバイオリズムにおける「ピークタイム」や「非ピークタイム」です。
ステップ2:タスクを種類別に分類する
抱えているタスクを、必要とされるエネルギーや集中力のレベルに応じて分類します。
- A:高い集中力が必要なタスク
- 新規機能の設計・開発
- 複雑なバグの解析・修正
- 技術調査、学習
- 難易度の高いドキュメント作成
- B:中程度の集中力が必要なタスク
- コードレビュー
- 比較的簡単な機能改修
- 要件定義の検討(準備段階)
- 議事録作成
- C:低いエネルギー・定型的なタスク
- メールの返信、チャットの確認
- 簡単なドキュメント修正
- タスクリストの整理
- 日報・週報作成
- 簡単なテスト実行
- D:回復・リフレッシュ
- 休憩、短い散歩
- 軽い読書や情報収集
- 同僚との気軽な会話
NotionやJiraのようなツールでは、タスクに「集中力レベル」「タスクタイプ」などのカスタムプロパティ(タグやセレクトボックスなど)を追加し、タスクリストをフィルタリングできるように設定すると、分類したタスクを管理しやすくなります。
ステップ3:時間帯とタスクの配置計画を立てる
ステップ1で見つけた自身のエネルギーレベルの波と、ステップ2で分類したタスクを組み合わせ、1日のスケジュールを計画します。これが「エネルギーレベルに合わせたタスク配置」の核心です。
- ピークタイム: ステップ2のAランク(高い集中力が必要なタスク)を優先的に配置します。
- 中程度の時間帯: ステップ2のBランク(中程度の集中力が必要なタスク)を配置します。
- 非ピークタイム: ステップ2のCランク(低いエネルギー・定型的なタスク)やDランク(回復・リフレッシュ)を配置します。
例えば、午前9時から11時がピークタイムであれば、この時間帯に最も難易度の高い開発タスクや技術調査を割り当てます。ランチ後の集中力が低下しやすい時間帯には、メールチェック、ドキュメントの簡単な修正、タスクリストの整理といった定型業務を行います。夕方、再び集中力が少し回復するようなら、コードレビューや比較的簡単な機能改修を行う、といった具合です。
カレンダーツールとタスク管理ツールを連携させるか、カレンダーツール上でタスクブロックとして時間を確保する方法(タイムブロッキングの応用)が有効です。NotionやJiraでタスクに予定時間を設定し、カレンダービューで確認すると、視覚的にタスク配置を管理しやすくなります。
ステップ4:計画を実行し、定期的に見直す
作成した計画に従って業務を進めます。最初は計画通りにいかないこともあるでしょう。予期せぬ割り込みや急な会議が入ることもあります。その際は、無理に計画に固執せず、柔軟に対応します。
重要なのは、定期的な見直しです。1日の終わりや週の終わりに、計画通りに進んだか、どこに無理があったか、どの時間帯の効率が良かったかなどを振り返ります。この振り返りを通じて、自身のバイオリズムやタスク配置の精度を高めていきます。
- 週次レビューでの確認項目:
- 計画通りにタスクを消化できたか
- どの時間帯の生産性が高かったか、低かったか
- 疲労を感じた時間帯とその原因
- 集中力が途切れた際の対処法は効果的だったか
- 割り込みタスクへの対応は適切だったか
この振り返りを繰り返すことで、自分にとって最適なタスク配置パターンが確立されていきます。
短時間で効果を出すためのコツ
この方法論は、すぐに劇的な効果が出るとは限りません。自身のバイオリズムを理解し、それに合わせてタスクを調整するには、ある程度の試行錯誤が必要です。しかし、以下のコツを押さえることで、比較的短期間で効果を実感しやすくなります。
- 完璧を目指さない: 最初からすべてのタスクを厳密に分類し、計画通りに実行しようとすると挫折しやすくなります。まずは「最も集中力が必要なタスクをピークタイムに持ってくる」という一点から試してみるだけでも効果があります。
- 「非ピークタイムにやることリスト」を作る: 集中力が低い時間帯でも効率よくこなせるタスクのリストを事前に作っておくと、その時間になった際に何をすれば良いか迷わず済みます。メール返信、簡単なチャット対応、技術ブログのチェック、コードのリファクタリング候補リスト作成など、軽い負担でできる作業をリストアップしておきましょう。
- 短い休憩を計画に組み込む: ピークタイムでも集中力は長時間持続しません。集中力の持続時間(例:ポモドーロテクニックの25分など)に合わせて、短い休憩(5分〜10分)を計画に組み込むことで、集中力を維持しやすくなります。非ピークタイムに短い休憩を挟むことも、その後の回復に繋がります。
- ツールのフィルターやビューを活用: NotionやJiraでタスクを種類別に分類したら、「今日のピークタイムにやるタスク」「非ピークタイムにやるタスク」といったフィルターやビューを作成しておくと、現在の状況に合わせて適切なタスクをすぐに確認できます。
まとめ
残業を削減し、自己投資やプライベートの時間を確保するためには、単にタスクをリストアップするだけでなく、自身のエネルギーレベルや集中力の波を理解し、それに合わせたタスク配置を行うことが非常に有効です。
まずは自身のバイオリズムを観察し、タスクを種類別に分類することから始めます。そして、ピークタイムに最も重要なタスクを、非ピークタイムに負担の軽いタスクを配置する計画を立て、実行し、定期的に見直します。
この「エネルギーレベルに合わせたタスク管理」は、自身のコンディションを最大限に活かすことで、限られた時間内での生産性を高め、結果として残業を減らすことに繋がります。今日から少しずつでも取り入れ、ご自身の働き方を最適化されてみてはいかがでしょうか。