ITエンジニアのためのWIP(進行中タスク)管理術:Jira/Notionでタスク渋滞を解消し残業ゼロへ
WIP(進行中タスク)過多が招く問題とは
ITエンジニアとして働く中で、複数のプロジェクトを掛け持ちしたり、予期せぬ割り込みタスクが発生したりすることは日常茶飯事かもしれません。このような状況下では、多くのタスクを同時に「進行中(WIP: Work In Progress)」の状態にしてしまいがちです。
しかし、WIPが多すぎると、一つのタスクに集中する時間が短くなり、コンテキストスイッチングのコストが増大します。結果として、どのタスクもなかなか完了せず、全体として作業効率が低下し、残業が増える悪循環に陥ることが少なくありません。進行中のタスクが多すぎると、脳のリソースが分散され、重要なタスクを見落としたり、簡単なミスが増えたりする可能性も高まります。また、「やっている感」はあっても、実際にタスクが完了しないため、達成感が得られにくく、精神的な負担にもつながります。
WIP過多を解消するための鍵:タスクの状態管理とWIP制限
この「WIP地獄」から脱却し、残業を減らすためには、タスクの「状態管理」を徹底し、「進行中」のタスク数を意図的に制限することが非常に有効です。
タスクの状態管理とは、個々のタスクが現在どのような段階にあるのかを明確に定義し、見える化することです。例えば、「未着手 (ToDo)」「進行中 (In Progress)」「レビュー待ち (In Review)」「保留/待ち (Waiting)」「完了 (Done)」といった状態を定義します。そして最も重要なのが、このうち「進行中 (In Progress)」の状態に置くタスク数を意識的に制限することです。
WIP制限を設けることで、一度に多くのタスクに手をつけるのではなく、目の前のタスクに集中せざるを得ない状況が生まれます。これにより、コンテキストスイッチングが減り、集中力が高まり、結果として個々のタスクをより早く、より高い品質で完了させられるようになります。タスクが次々と完了していくことで、達成感も得られやすくなります。
Jira/Notionを活用した具体的なWIP管理術
普段利用されている方も多いJiraやNotionといったツールは、タスクの状態管理とWIP制限の実践に非常に適しています。これらのツールを活用することで、タスクの状態を視覚的に把握し、チーム全体で共有することも容易になります。
JiraでのWIP管理
Jiraはソフトウェア開発プロジェクトで広く使われており、タスク(課題)の状態管理機能が非常に強力です。
- ワークフローの設定: Jiraのワークフロー機能を使って、プロジェクトのタスクが通過する状態を明確に定義します。一般的な開発ワークフローであれば、「To Do」「In Progress」「In Review」「Done」などが考えられます。必要に応じて「Waiting for Customer」「Blocked」などの状態を追加することも可能です。
- カンバンボードの活用: 定義したワークフローは、カンバンボードで視覚化するのが効果的です。各列がタスクの状態に対応し、タスクカードをドラッグ&ドロップで状態遷移させることができます。
- WIP制限の設定: Jiraのカンバンボードでは、各列(状態)にWIP制限を設定することができます。例えば、「In Progress」列に「最大3件」といった制限を設定することで、同時に4つ以上のタスクを進行中にできないように物理的に制限できます。この制限値はチームや個人のキャパシティに合わせて調整します。
- JQLでのフィルタリング: Jira Query Language (JQL) を使用して、特定の状態にあるタスク(例:
status = "In Progress" and assignee = currentUser()
)をフィルタリングし、自分のWIPを確認することも容易です。
NotionでのWIP管理
Notionは汎用性の高いワークスペースツールですが、データベース機能を活用することで柔軟なタスク管理システムを構築できます。
- タスクデータベースの作成: Notionページ内に「タスク管理」などのデータベースを作成します。
- 状態プロパティの設定: データベースのプロパティとして「ステータス (Status)」を追加します。このプロパティに「未着手」「進行中」「レビュー待ち」「完了」などのタグ(マルチセレクトまたはセレクトタイプ)を設定します。
- ボードビューでの表示: 作成したデータベースをボードビューで表示します。このビューはJiraのカンバンボードと同様に、各列が「ステータス」のタグに対応し、タスクページをドラッグ&ドロップで移動させて状態を管理できます。
- フィルタリング・ソート: データベースのフィルタ機能を使って、自分の担当タスクかつ「進行中」のタスクのみを表示させることができます。ソート機能と組み合わせることで、優先順位の高いものから順に表示することも可能です。
- WIP制限の意識: NotionのボードビューにはJiraのような物理的なWIP制限機能はありませんが、表示されている「進行中」のタスク数を常に意識することで、自主的なWIP制限を実践できます。フィルタリングで自分のWIPを絞り込んで表示し、その数を意識的に少なく保つように心がけます。
今すぐ始めるWIP管理の実践ステップ
- 現在のタスクを洗い出す: 自分が抱えている全てのタスクを一度リストアップします。Jira、Notion、Slack、メール、メモ帳など、様々な場所に散らばっているタスクを可能な限り集約します。
- タスクの状態を定義・マッピングする: 自分の業務フローに合ったタスクの状態(ToDo, In Progressなど)を定義し、洗い出したタスクそれぞれを今の状態にマッピングします。
- ツール上で状態管理環境を構築する: JiraまたはNotion(あるいは両方)で、ステップ2で定義した状態を反映したボードビューを設定します。
- WIP制限を設定または意識する: Jiraであれば「In Progress」列に具体的なWIP制限値を設定します。Notionであれば、ボードビューで自分のWIP数を常に確認し、設定した制限数を超えないように意識します。最初は「3つまで」など、少なめの数から始めるのがおすすめです。
- 日々のタスクをボードで管理する: 朝、ボードを見て今日の「In Progress」タスクを確認します。新しいタスクが発生したら「ToDo」に追加し、着手する準備ができたらWIP制限を超えない範囲で「In Progress」に進めます。タスクが完了したり、レビューに出したりしたら、その状態に移動させます。
- 定期的にボードを見直す: 毎日または週に一度、ボード全体を見直し、停滞しているタスクや完了済みのタスクがないか確認します。
まとめ
WIP(進行中タスク)の過多は、ITエンジニアの生産性を著しく低下させ、残業の大きな原因となります。タスクの状態を明確に定義し、JiraやNotionのようなツールを活用して見える化し、さらに意識的にWIPに制限を設けることは、この課題を克服するための非常に効果的な手法です。
WIPを適切に管理することで、個々のタスクへの集中力が高まり、タスク完了までのリードタイムが短縮されます。結果として、日々の業務が効率化され、無駄な残業を減らすことが可能になります。ぜひ今日から、ご自身のタスクの状態管理とWIP制限を意識し、より集中してタスクを進められる環境を構築してみてください。これにより、業務時間内にタスクを終え、プライベートの時間や自己学習の時間を十分に確保できるようになるでしょう。